先日、私は仮装(コスプレ)パーティのお誘いに対して
「トイレットペーパーでも巻いて出るわ」という
非常にやる気のない返事をしていた。
それに対して同居人は県外の中華街まで出かけて
足から頭の先まで本格的に揃えてくるという懲りようだ。
私が和紙をつぎはぎして衣装を作るというと、そんなもの
すぐ壊れてしまうだの買いに行かないのかなどと圧をかけてきた。
そんな風に言われてなおさら動くような性質の私ではない。
しかし次第に『~に似せる』という試みよりも
『おれだよ!おれをみてくれ!』という
自己顕示欲が優先されたとき、私の仮装は加速していった。
私は仮装を作成していた。お面を買ってきてとかじゃない、
中国人の王君のように餃子の皮から仕込んでた。
鬼のお面は小学生の時に作ったことはあるが、そこから何歩か
進まないといけない。もっと呪術的で本格的な何かを。
何かパロディの元があるわけでもない。そう、これは創作だ。
唯一無二の創作なんだ。
パーティ会場にはどんな仮装した奴が集まるんだろう?
私は会場の隅でドアから真正面のあたりを選び座った。
ここなら仮面の顔がヌッと暗闇から現れるような感じで
脚光を浴びるとおもったのだ。
おや、反応がない。ぎょっとした顔がみたいのに。
そもそも視野が狭すぎて正面以外がほとんど見えない。
わっと喝采があがった、そっちに顔を向けてみる。
そこには
トンボ、シータ、パズー、マリオ、ルイージ、ジョブス、ミク、まりもっこり
といった版権野郎が男女入り混じって明るいライトを浴びていた。
「コ・・・コミティアです。」
私はおもわずあの言葉を飲み込んだ。
子供にも「怖くない~」「変な人~」と心無い人格攻撃的な批評をされた
と思うほど余裕のない私に気付いたのか、この企画の中心人物でもあり
すぐれた洞察力と会話能力をもった司会者が私に光を当てるべく役目を
振ってきた。
ついに私の時代がやってきたのだ。
『乾杯の挨拶』を高らかに宣言すること。それが私に課せられた仕事だった。
私はほとんど見えない視界を逆に利用して、もったいぶりながらふらついたフリ
をしてマイクのところへついた。
背後から黄色い悲鳴があがる、そうだこれこそが私の求めていたものだ。
わたしの創作には共感から起こる笑いなぞ存在しない・・・もっと畏怖しろ!
怖がれ!
「小学校の頃に作ったお面をおもいだすねー。」
「ねー。」
私は平らな地面につまずいた。司会者が
「これは、オリジナルのようです。」
と言ったあとに頭上に笑い声が響いた。
私は薄れ行く意識の中で、あの言葉を思い返していた。
「コミケじゃないですコミティアです!!」